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コラム:コール元独首相がドイツと欧州に残した「遺産」
2017年6月19日 / 05:17 / 6ヶ月前

コラム:コール元独首相がドイツと欧州に残した「遺産」

Olaf Storbeck

 6月16日、87歳で死去したドイツのコール元首相(写真)は、戦後の傑出した欧州指導者の1人だった。ベルリンで2005年11月撮影(2017年 ロイター/Tobias Schwarz)

[ロンドン 16日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 16日に87歳で死去したドイツのコール元首相は、戦後の傑出した欧州指導者の1人だった。コール氏は3つの道筋で自国と欧州大陸の形作りに貢献した。

第1に、東西ドイツ再統一の指揮を執った。第2に、欧州単一通貨ユーロの誕生に尽力した。第3に、1990年に旧東ドイツの無名の科学者だったアンゲラ・メルケル現首相に好機を与えた。メルケル氏が後に世界屈指の有力政治家になったのは、ある程度までコール氏のおかげである。

コール氏の成功は才能と忍耐、そして幸運が組み合わさって実現した。再統一後のドイツを、統合した欧州の中にしっかりと固定したことは、彼の大きな遺産のひとつだ。

コール氏はベルリンの壁崩壊を速めるのにほとんど貢献しなかった。しかし崩壊後は素早く、東西ドイツの統一を国内外における政治課題に据えた。コール氏は有名な「10項目計画」の大枠を、1989年11月9日の壁崩壊から3週間後に示し、統一に懐疑的だった西側同盟諸国と、尻込みしていた旧西ドイツ市民を驚かせた。統一ドイツの北大西洋条約機構(NATO)残留について旧ソ連の承認を取り付けたのは快挙だ。

統一過程におけるコール氏の経済運営は、さほど素晴らしかったとは言い難い。旧東ドイツとの通貨同盟は拙速で、為替レートの設定も高過ぎた。国有企業の民営化は失敗し、債務による復興資金の調達は、少なくとも10年にわたってドイツの財政に傷を負わせることになった。保守政党、キリスト教民主同盟(CDU)に所属するコール氏だが、硬直化した労働市場と膨張した社会福祉国家を改革する機は逸した。長年の懸案だったこの問題に取り組んだのは、その後政権についた社会民主党(SPD)のシュレーダー前首相だ。

コール氏がユーロ導入に熱を入れたのは、フランスが東西ドイツ統一を承認してくれた見返りに、ドイツは大きく譲歩する必要があると考えていたからだ、との指摘も一部にはある。後講釈だが、ユーロ圏の設計には欠陥があり、ユーロ危機につながった。皮肉なことに、そのユーロの欠陥が、おそらくはドイツの経済的覇権を強めた。しかしコール氏は最初から、単一通貨が政治的に恩恵をもたらすことを心底信じていた。

コール氏は国内でしばしば、偏狭で鈍い人物として嘲笑されてきた。あだ名は「Birne(洋ナシ)」だ。首相就任後7年の1989年9月、CDU内で起こった反逆で彼の政治生命は終わりかけていた。ベルリンの壁が崩壊しなければ、次の選挙では確実に負けていただろう。しかしコール氏は結局、戦後ドイツで最も長く政権を率いた首相となる。

コール氏は1998年の選挙で彼自身とCDUが大敗するまで、首相の座に留まった。その後、国内での評判は政治資金を巡る疑惑で傷ついた。コール氏は出所不明の110万ユーロの献金を受け取っていたことを認めたが、献金元を明かすことは拒んだ。CDUは資金報告の不備により、実に2110万ユーロの罰金を科される。

スキャンダル発覚後、コール氏を党内の主要ポストから完全に外したのは、コール氏の秘蔵っ子メルケル氏だった。鉄の意思を持った彼女ならではだ。ベルリンの壁崩壊前、メルケル氏は旧東ドイツの科学アカデミーで科学者として働いており、政治家として活動し始めたのは1989年12月になってからだった。11カ月後、コール氏は彼女を統一後初の政権における女性問題相に任命する。

メルケル氏を「das Mädchen(女の子)」と呼んでご満悦だったコール氏は、彼女を見くびっていた。他の多くのドイツ政治家もそうだった。メルケル氏の政権運営スタイルは、大風呂敷を広げず実践的なコール氏のそれを踏襲している。彼女はコール氏の政治生命に幕を降ろしたが、ドイツと欧州の統一、そして単一通貨という彼の構想には今でも忠実だ。

●背景となるニュース

*ヘルムート・コール氏が16日、87歳で死去した。1982年から90年まで旧西ドイツの首相を務め、90年から98年までは統一ドイツの初代首相を務めた。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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