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コラム:駆け足の米金融政策正常化に3つの事情=鈴木敏之氏
2017年6月16日 / 07:57 / 6ヶ月前

コラム:駆け足の米金融政策正常化に3つの事情=鈴木敏之氏

[東京 16日] - 14日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、2015年12月以降で4度目となる利上げを決定すると同時に、年内に量的緩和の正常化であるバランスシート縮小に進むことが声明に書き込まれた。

併せて、付属文書として「金融政策正常化の原則と計画」を公表。どのようにバランスシートを縮小していくか、その金額及びスケジュールを示した。

バランスシートの縮小は、そもそも年後半(Later This Year)と言われていたはずだったが、同付属文書を読む限りでは、極論を言えば、イエレンFRB議長の記者会見がない7月26日のFOMCで決定することも可能だ。

さらに、イエレン議長は記者会見で、バランスシートの縮小開始時期を問われて、比較的早い時期という答弁を行った。なぜ、これほど急ぐのか。

<歴代議長が守った不文律を踏襲か>

急がなければならない事情は、次の3点だろう。

第1は、2014年2月に就任したイエレンFRB議長の任期が2018年2月3日に切れることだ。イエレン議長は大統領に再指名されて、上院で承認されれば、法的に再任は可能だが、たとえ再任されるにしても、この金融政策正常化の仕事は現任期中に進めておこうという意向が強い様子である。

グリーンスパン議長(在任1987―2006年)は連続利上げで引き締めの仕事を終えて、バーナンキ議長(同2006―2014年)に引き継いだ。バーナンキ議長は量的緩和の拡大を止めて、すなわちテーパリングの仕事を終えて、イエレン議長にバトンを渡した。難しい仕事は、それまでの実績を生かせる前任者が済ませて任期を終えるのが、不文律と言える。

イエレン議長がそれに従うならば、時間的余裕は乏しい。年内で記者会見のあるFOMCは、もう9月20日と12月13日だけである。9月は、新会計年度開始の直前で議会が荒れている可能性がある。利上げとバランスシート縮小を同時に行うのは難しいだろう。

バランスシートの縮小は、事前に予測可能にするということが強調されている。これは、バーナンキ議長(当時)がテーパリングに言及した2013年5月の「バーナンキ・ショック」によって、債券相場が崩れたような事態の再発を防ぐためであるが、事前の周知徹底に時間がかかる。これが急ぐ第1の事情だろう。

<早く進めないとできなくなる懸念>

第2に、経済状態の雲行きも怪しい。自動車販売が鈍り、住宅着工もやや弱い。金利感応度の高いセクターで減速が起きている可能性がある。また、非農業部門雇用者の増加数も弱めの数字になっている。

米連邦準備理事会(FRB)は、第1四半期に国内総生産(GDP)が弱かったのは、一時的と主張し、継続利上げを進める姿勢を崩さなかった。しかし、一時的かどうか、微妙になるかもしれない。そして何よりも、インフレ率の数字が弱い。

インフレ率については、今回のFOMC後の会見では、携帯電話、処方箋薬が落ち込んだが、それは統計のノイズという認識であり、インフレ率の基調の変化とは見ていない。労働市場がタイトであることは、周辺指標で見ても分かるとして、賃金上昇の可能性も示唆している。

しかし、原油価格の上昇分は今後、前年比を計算する際に剥落してくる。2%のインフレ目標を達成できないのに、利上げもバランスシート縮小も進めてよいのか、抵抗は出てこよう。つまり、早く進めておかないと、できなくなる懸念があるのだ。

<FRB理事の大幅刷新>

第3に、FRB理事人事の大幅刷新が待ち構えていることがある。新理事が指名されるという報道もすでに出ている。新理事が、大統領の指名と上院の承認を得て正式に就任すれば、FOMCで意見を言って、政策の方向を変えるとしても問題はない。

もっとも、その就任前に、この人が理事になれば、政策はこう変わるはずだという思惑で、市場がFRBにとって好ましくない反応をするかもしれない。場合によっては、イエレン体制でここまでお膳立てしてきた政策がとれない事態にもなりかねない。

こうした事情から見ると、イエレン議長がバランスシート縮小を急ぐのは、至極納得できよう。

<7月FOMCで縮小実施決定の可能性も>

では、バランスシート縮小実施の決定はいつか。記者会見のないFOMC会合だが、7月26日の可能性は排除できないと考える。

縮小政策の周知徹底はすでに十分と言えよう。記者会見がないというが、定例の議会証言でも政策の説明は可能だ。そして、7月に決定、8月から実施すれば、仮に何か問題が起きたとしても、9月20日のFOMCで対応できる。

また、利上げも年内にあと1回行う意向だと思われるが、縮小を開始しておけば、9月20日でも12月13日でも5度目の利上げは可能であり、政策の自由度が広がる。FRBから見れば、バランスシートの縮小開始は、早ければ早いほどよいことを市場は認識しておかなければならない。

*鈴木敏之氏は、三菱東京UFJ銀行市場企画部グローバルマーケットリサーチのシニアマーケットエコノミスト。1979年、三和銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。バブル崩壊前夜より市場・経済分析に従事。英米駐在通算13年を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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